はじめに

2024年7月4日をもちまして、株式会社エムールは設立18周年を迎えることができました。 ひとえに、いつも支えていただいている皆様のおかげと感謝申し上げます。本年は、私たちが社会の変化をどのように感じているのか、 そして中小企業と言う立場の私たちが何を為すべきかを書いていきます。

なぜ、中小企業と書いたのか。それは、歴史ある大企業と中小企業では立場が大きく違うからです。 同じ現象に対峙した時、感じることや影響が異なります。私たちは中小企業ですので、その立場で書いているということを強調しないと勘違いを生むと思い、このように記述しました。 企業数では圧倒的に中小企業の方が多いですが、世間に広がる情報の多くは大企業視点から発信されるものです。 やや前置きが長くなりましたが、私たち中小企業がどのように考えて、取り組んでいるのかを知っていただき、何かの参考になれば幸いです。

社会構造の変化

2024年は波乱の幕開けでした。被災された方々とそのご家族の皆様に改めて心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。 改めて当たり前な日常の価値を感じました。大切に一日一日を生きたいと思います。国内だけでなく、国外情勢の悪化は今も終わりの兆しが見せません。 毎日のように痛ましいニュースが飛び込みます。悲しい気持ちになるとともに決してこの異常さに慣れることのないように思考し、行動します。

経済に目を向けると記録的な円安の進行、資源価格の上昇、それに伴う物価の上昇など、様々な変化が起きています。 日本で生活する立場では、円安や物価上昇は生活の圧迫を生み、節約志向となる傾向があります。訪日外国人の立場では、安くて安全で良い国と捉えられます。 日本の市街には、多くの外国人観光客で賑わっています。まるで日本が世界のリゾートになっているような感覚に陥ります。逆に私たちが海外に行くと買い物が高くなったと感じ、楽しみが減ったように感じます。 相対的に日本円の価値が低下し、ひいては日本の価値が低下しているのでしょう。

海外販売割合が高い大企業では過去最高の業績を示す一方で、国内販売割合が高い中小企業においては、厳しい業績を示しています。倒産件数は増加傾向で、負債総額も高水準という結果です。 この事象に対して政府が効果的かつ即座に対応することはなく(できない)、引き続き大企業と中小企業間における経済格差は開き続けると予測されます。 引いては、国民全体の格差もさらに広がることになります。従来の4階級(資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級)からアンダークラスが生まれ4+1階級構造に変化しています。 さらに、日本全体としての力が低下しているのが大きな問題だと捉えています。今後の社会構造の変化、そして経済との関連を今後も注視していく必要があります。 一企業の社会貢献(事業内容と納税)がさらに求められると感じています。

エムールとはか?

さて、少しエムールの事業の話を書きます。私たちは、社会変化に対応すべく、常に自己定義を見直しています。 つまり、エムールとは何か?を常に考えて更新し続けています。そのために必要なのは、時代認識と付加価値です。

私たちが顧客に提供するものは、人間の寝る、座る、しまう、を快適にするものです。 特に寝るもの、座るものについては、私たちの専門分野になります。エムールは、寝心地と座り心地を極めていくブランドであると定義できます。 私たちの視点は常に人間に向いています。人に主眼を置き、人の心理と身体を共に充足させることが目的です。

私たちの関心は、人間と環境の間にある現象にあります。人は環境(もの)に対して知覚することができます。 知覚(知覚システム)には、視覚、触覚、嗅覚などの感覚から構成されています。 マットレスに関する知覚でいうと、手で生地を触れているときの物体表面の感覚である皮膚触覚や、表面素材の接触温度や、寝返りの際に感じる弾力性のような触運動感覚があります。 これらを研究や実証を繰り返し、人にとって良い寝心地と座り心地を提供していくのがエムールであるといえます(ブランドサイトリンク)。 結果、ビジョンである「眠りで世界の人を元気にする」を実現するのです。

不十分を補完する体験

「人にとって良い寝心地と座り心地を提供」が私たちの付加価値と言えますが、不十分な点があります。 それは、寝心地も座り心地も人間が環境(もの)と直接触れないと知覚できないということです。私たちのビジネスのベースはEC(Electronic Commerce:電子商取引)です。 しかし、ECは直接触れることが現時点では不可能ですので、この部分を補完する必要があります。

そこで生まれたのがエムール体験ショールームです。2022年に立川ショールームを、2024年に南青山ショールームをオープンしました。 弊社のショールームは、きわめて目的志向です。売り込みなし(社内的にいうと売上ノルマという概念がない)、予約制で1組ずつ接客、顧客体験第一というルールに則って運営されています。 詳細はショールームHPお客様のレビュー に委ねますが、私たちが目指すことを体現した場です。売上にはこだわりませんが、お客様から得られた情報の共有には徹底的にこだわります。

ECとショールームの声は得られる情報の質と方向性が異なります。ECは、定量的なデータに偏りがちです(売上、在庫回転率、広告効率)。そのため、従来の接客型家具店と比べると商品構成にいびつさが生じます。 総合型インテリアECの場合、同じようなデータを見ていますから商品構成が似通う宿命があります。また、専門インテリアECの場合は、専門的というか商品構成が固定的になります。 どちらも課題があるのです。ショールームの声は使用者の主観的な情報です。使用者情報は、ECサイトのレビューにて記述されることはありますが、ごく一部にすぎません。対面でないと気が付かない情報に価値があるのです。 また、私たちもこのショールームを表現(運営)することで得られる気づきが多くあります。エムールは、ECとショールームからなる情報で商品開発を行い、 商品ラインナップを構成しています。このこと自体が目に見えない差別化に繋がります。

今という時代の中で

時代認識について記述します。日本は、いうまでもなく超高齢化社会です。この現象に対して何ができるのかを真剣に考える必要があります。人間は20歳前後に肉体的なピークを迎え、その後は徐々に衰えていきます。運動機能の低下は日常生活に影響を及ぼします。フレイルという言葉があり、「病気ではないが、加齢とともに筋力や心身の活力が低下している状態」を指します。まさにこのフレイル人口が増加しています。

もう一つは、いよいよ日本だけではビジネスが成立しなくなってきたことです。私が20代の頃、韓国や台湾の友人たちは、自国ではなく世界で商売をしていました。自国の経済が小さいことから日本や米国での商売が必要だったのです。それと同じ状況が今の日本です。この時代から逃れることはできません。立ち向かい行動するしかないのです。この時代認識に従い、エムールは自己定義を更新していきます。

海外事業については、2014年の米国から開始しちょうど10年。アメリカの後、カナダ、ドイツ、フランスと広がり、19期はイギリス、オーストラリアでの販売を予定しています。海外売上比率も高まってきました。日本初のインテリアブランドとしては、海外で挑戦している企業の一つだと思います。しかし、まだ端緒についだばかりです。今は、寝具・家具を販売しているだけでエムールとは何か?までは伝わっていません。 しかし、人は育っています。有望な人材と共に、エムールの持つ背景を伝えられるように行動すれば、きっとそれぞれの国の顧客に伝わるはずです。

挑戦無きものに成功はない

そして、これらを推進するのは挑戦する気持ちです。しかし、ECという効率性の高いビジネスを基盤にしていることでEC事業者の多くはリスク回避思考になりがちです。 海外リスク、在庫リスク、広告リスク、人材投資リスクなどを最小限にするように思考します。それはそれで正解です。しかし、リスク回避を前提とした行動原理は取り返しのつかない構造を生むデメリットがあります。 それは、事業持続性が経営者の現役寿命に相当する事、付加価値量が小ぶりになる事、日本の経済環境(ECモールが主体)に大きく左右されることなどです。 さらに、これだけ社会環境が変化する世の中では、新しい考え方を取り入れリスクを取らないと変化対応ができないのです。よって、あるとき急に、安定的と思っていたビジネスが失速することが起こりえます。 元来、ビジネスは失敗するのが当たり前です。肝心なのは失敗から何を学んで、どう次に活かすかです。「挑戦無きものに成功はない」という使い古された重い原則が、いよいよ私たちに突き付けられたように思えます。

しかし、挑戦はまさに「言うは易く、行うは難し」です。中小企業の「挑戦する」とは、「経営者の諦めや絶望からの回復力」ともいえます。 中小企業は、大企業と比較すると驚くほど武器(あらゆる資産)がありません。「計画の手前の手前」で失敗することがほとんどです。「計画が失敗した」というのはまだよい方です。 計画のスタート地点どころか、その遥か前から失敗することもあります。すると、経営者の心は削られ、「うちには無理だ」と思うようになり、挑戦に対する制限をかけていきます。 その気持ちは分かります。私も、何度心が折れかけたことか。折れかけたではなく、おそらく何度も折れています。でも、ここからが本当の勝負なのです。多くの人(経営者)の心が折れている状態は競争状態が弱まっていることを示します。 だから、折れた心を何とか戻し(実際には戻らないが、戻ったと思い込む)、再度(ひきつった)笑顔で社員に挑戦を促すのです。それを繰り返すことでほんの少しだけ前進します。 このほんの少しの前進の積み重ねにより、自分たちが目指すところに近づくのだなと実感しています。この工程の中で、共に働く社員は強くなります。ビジョン、時代認識、付加価値など概念理解が難しいことも共有されるようになります。 この部分はエムールの外に見えない強みです。この諦めないで挑戦する気持ち、気が遠くなる期間の長さ、毎年振出しに戻る感覚、仲間との高次元の共有、は東京ヴェルディとの関りで学んだことでもあります。

を燃やし続けられるか?

時代認識を行い、それに対応した付加価値を構成していく。常に自己定義を見直し、それを社内外に浸透させていく。 そのビジョンをECだけでなく、リアルな現場でも表現する。さらに、日本だけではなく海外にも展開をしていく。その中で必要な挑戦をめげずに繰り返していく。 なんとなく、綺麗にまとまった感がありますが、これで経営が成り立つことはありません。経営は結局数字(請求と支払い)ですので、 ビジネスモデルの精緻さ(時代に合っているか、付加価値は十分か)とそれを突き動かす熱意(実行力)だけでは足りないのです。税法や就業に関する法改正も頻繁です。 企業間の契約上の不利益変更も日常茶飯事です。さらに、AI化、システム化されたプレーヤーの参入がいつ起こるかもわかりません。今までの勝負の土壌次元が急に変わるのです。 だからこそ、合理性の追求は常に行わなければいけません。事業を行う上で必要な情報を効率的に収集し、最大効率で実行するということは、顧客と向き合い親切な心で接するのと同じくらい重要です。 合理性だけの商売でも、人情だけの商売でも怠慢です。この2つをいかに高次元に融合させるのかが本当の経営の鍵であると痛感しています。

エムールの18期は過去最高の売上高と利益額を記録しました。創業以来の黒字記録を更新しています。しかし、これは単なる数字の結果にすぎません。実際には、18年間で最も難しい戦いでした。つまり、難易度も過去最高でした。 この難易度は、今後も低下するとは考えづらい。もしかしたら、指数関数的に難易度が高まる可能性も十分にある。そういう状態になった時に、中小企業である私たちは対応できるのか、を経営者は考えると思います。私も毎日考えています。 この段階になると、自分たちは生き残ることができるのか、そのために自分の魂(資産も)を燃やすことができるのか、という突き詰められた問いが迫ってきます。 まさに裸の自分と向き合って心に問うのです。人のことは関係ありません。18年経営をし、この業界で30年近く働いてきた私には何も成し遂げた感覚がありません。だから(悔しいし)やりたいというのが今の気持ちです。 幸いにも、この複雑な社会を共に進んでくれる仲間がいます。彼らと共に19期もビジョンに向かって魂を燃やして実行していきます。どうぞ、皆さまよろしくお願いいたします。

2024年7月4日
株式会社エムール
株式会社スリープテクネ
代表取締役
高橋 幸司